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連載 幕末・維新の桑名藩シリーズ 郷土史家 西羽晃(著)

幕末・維新の桑名藩シリーズ05
松平越中守家の江戸屋敷(2)

桑名市にある鎮国守国神社の宝物館に「桑名藩八丁堀屋敷」絵図が軸装されて展示されている。桑名市教育委員会の調査書『桑名松平伝来資料史料調査報告書』によれば、50.6×101.3センチである。識語・奥書によると、文政12年(1829)から天保2年(1831)にかけて出来上がった建物の配置図である。中心部の建物と幾つかの長屋に氏名が書いてあるけれど、細かい字であって読み取れない。天保12年に写したものである。

 「桑名藩御触留」によると、文政12年3月25日に桑名藩の北八丁堀屋敷、向築地屋敷(浴恩園)・蛎殻丁屋敷が全焼した。同年12月には向築地屋敷が再建され、北八丁堀屋敷の一部も再建された。ところが弘化3年(1836)1月16日に北八丁堀屋敷は再び焼失した。そして同年12月に再建されている。

 北八丁堀屋敷は何時取り上げられたかは不詳だが、慶応4年=明治元年(1868)4月の江戸開城によって桑名藩屋敷は取り上げられたであろう。明治2年6月19日に旧桑名藩の北八丁堀屋敷の一部である3,933坪が徳島藩に下賜されている。
桑名藩の完全敗北、そして明治2年8月15日に再興され、同年11月には旧桑名藩の北八丁堀屋敷のうち4638坪余河岸共を頂戴している。徳島藩へ渡された残りの部分と思われる。

 同12月に木挽丁屋敷(旧山上藩屋敷)を桑名藩に与えられている。しかし翌3年の正月27日に木挽丁屋敷が類焼で焼失したため、同年2月14日に下谷七曲がり屋敷(旧久保田藩屋敷)が下賜されている。この段階で北八丁堀屋敷は、召し上げられていないようで、3年3月9日に桑名藩士加太邦憲が東京に到着して、取り敢えず「八丁堀の藩邸に入」(『自歴譜』加太邦憲著)っている。なお下谷七曲り邸内には扇稲荷社が祀ってあった。松平家は後に小石川大塚へ移ったが、扇稲荷社は元の場所に現在も祀られている。

 小石川大塚の屋敷は松平定信が文化年間(1804−17)の始めに購入した屋敷である。抱屋敷として松平家が独自で所有していた。定信はここに庭園を築き春園・秋園・果園・竹園・集古園・攅勝園を設け、総称して六園と称した。拝領屋敷でなったから、維新後も没収されずに、松平家屋敷として続き、明治43年に松平家が移り住んだ。土地の一部は昭和3年(1928)に東京市の大塚公園となった。松平家の建物は昭和20年の戦災を免れたが、戦後の財産税のために政府に物納され、現在は東邦音楽大学の敷地になっている。明治43年に松平家の屋敷神として祀られた住好稲荷社は大塚公園内に現在祀られている。

 桑名藩の敗戦責任を取らされた森陳明は明治2年11月13日に斬首されたが、その場所については「茅場町家持儀兵衛所持深川入舟町地面借受所置相済」(「太政類典」)と届けられている。ここに言う「茅場町家持儀兵衛」とは、次回に述べる浴恩園を買取った「南茅場町廿番地地主永岡儀兵衛」(「海軍省公文備考」)と同一人物であろう。また「深川入舟町地面」とは旧桑名藩の拝領深川屋敷と思われる。桑名藩では深川屋敷を新政府に召し上げられる前に町人の永岡儀兵衛に売却していたのであろう。なお、永岡儀兵衛は桑名藩の万延元年(1860)の「分限帳」には「天保十三寅七月御扶持被下 嘉永三戌高被下 三百石弐拾五人 永岡儀兵衛」とある人物であろう。されば商人ながら300石という高い禄を受けているから、桑名藩に高額の貸付をし、藩の財政を支えていた商人であろう。

 なお前回に深川屋敷の性格など不詳としたが、白河市歴史民俗資料館・白河集古苑のHPによれば、文化13年(1816)に設けられた別荘で、松平定信が造営した庭園がある。園内には富士山を遠望する望嶽台があり、また石造の西洋式日時計が置かれていた。

注 主な資料は「松平家系譜」(松平家旧蔵・鎮国守国神社現蔵)
       「桑名藩御触留」(西尾市・岩瀬文庫所蔵)
       「公文録」「大政類典」「海軍省公文備考」(いずれも国立公文書館所蔵)
       渋沢栄一著『楽翁公伝』(岩波書店発行)
       小沢圭次郎著「明治庭園記」(『明治園芸史』第10篇所収)

 大塚の松平家屋敷については松平家のご当主・松平定純氏のご教示を得た。また扇稲荷社・住好稲荷社については西村健二さんが現状写真を撮ってきて頂いたので、参考にした。

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